コラムこころの理解


第5回「性格(人格)障害 − Personality Disorder」

いったい「性格(パーソナリティー)」に病気なんてあるのでしょうか?

「十人十色」という諺があります。ひとが十人集まれば一人一人考えや感情は異なっているということですね。

よく「気が合う、合わない」ということが言われますが、これは一定以上(こころの)距離が近い場合に使われますね。しかしお互い相手が間違っていて自分が正しいとは思っても、なかなか相手が「病気」だとは思わないのではないでしょうか。

世の中にさまざまな性格のひとが存在するというのは、必ずその方を必要とし、またその人が活躍できる場があるということではないでしょうか。「イエスマン」や「金太郎飴」だけでは組織は成り立たないのです。

しかし、ひととのコミュニケーションがうまく行かず「自分や(周り)社会」が悩むなら病気として扱った方が良いのではないでしょうか。つまり「治療」を要するということです。

たとえば「ひとは一人では生きて行けない」とはよく言われる事ですが、あまりにも常識的なので私たちは普段ほとんど意識しません。(私はこの諺のなかに、自分とは異なる考えのひとも大事にすることが必要であることが含まれると考えます。ひとにはそれぞれ弱点や盲点があるのです。)

例でお示ししましょう。

ここにAさん(会社員、38歳男性)がいます。Aさんは、独身で実家に住みそこから職場に通勤しています。一人暮らしの経験は、大学生の4年間を除いてありません。炊事・掃除・洗濯は母親がしてくれています。職場へ着ていくスーツも母親が用意しています。交際している女性はいません。他の兄弟はそれぞれ結婚して実家を出ています。

Aさんの趣味は模型(プラモデル)作りです。休日は家で模型作りをするか、自転車で散歩にでます。時々両親がお見合いの写真を持ってきますが、Aさんは決めることが出来ません。どうもこれから実家を出て再び一人暮らしする気はないようです。

職場でのAさんは、仕事熱心なのですが回ってくる仕事を忠実にこなすだけで自分の意見は言いません。特に上司の意見や指示に逆らったことはありませんが、自信がなく自分の意見が言えないのでチームリーダーになったこともありません。Aさんは繁忙期で仕事が増えても文句も言えないので、過労で調子を壊しそうになったこともありました。

実際、私がAさんを知ったのは、彼が「不眠」でクリニックを受診したからでした。診断は「うつ病」でしたが、問題は「うつ」だけではなかったことです。年齢に比して社会経験が圧倒的に不足していることと、適切な自己主張(自己防衛)がなかったことです。(Aさんは依存性パーソナリティー障害と言えるかもしれません)

また、Aさんはひととしゃべるのが苦手で、議論をすることを避ける傾向が非常に強く、仕事上の責任を避けることがよくあるなら、さらに「回避性パーソナリティー障害」の傾向も強いと言えるでしょう。精神科では、「社交不安障害」という病名もあります。

この場合、会社も困り、Aさん本人も悩んでおられるなら、治療をお勧めします。

しかし、基本的には「悪い」性格というものはないと考えたほうがよいと思われます。ひとは確かにある性格傾向を持って生まれてきます。そして、「他者とのコミュニケーション(精神的交流)」によって自分の良い傾向を伸ばし、良くない傾向を修正して社会に適応していきます。その適応はすでに幼稚園(保育園)以前から始まっているのです。

Bさんは、幼い頃からひとを笑わせることが上手な人です。しかしBさんの表現はややオーバーなので、周りのひとはそれこそ「話半分」にして聴くのです。世間にも「かまってちゃん」という表現があるくらいです。「承認欲求」ということばがあるように、誰しもひとに認められることには快感と(孤独ではないという)安心感を得られるのです。しかし承認欲求を求めるあまり、嘘をついてしまうとひとから見放されてしまうことにもなりかねません。(演技性パーソナリティー障害)

その他にも、さまざまな人格(パーソナリティー)の歪みを持ったひとがいます。

昔からそのような人々も世の中を形成してきたのです。いわゆる有名人、権力者や芸術家といわれるひとにも散見されます。