メンタルヘルス対策のポイント


セルフケアという考え方の大切さ

適切な診断の次は、適切な治療ということになります。現在、「こころの不調(病)」の治療法は、医学的にいえば包括的な治療(comprehensive)が一般的です。

これは、①薬物治療(適切な服薬)②心理療法(カウンセリング)③生活療法(睡眠・休養などを適切に取る)を一括したものを指しています。本来は、病気の種類によって、①、②、③の比重を十分斟酌し、適切なバランス配分で包括的治療を行うべきなのです。しかし今の日本では、一度「病気」と診断されてしまうと、事実上①の薬物療法のみになってしまいがちです。薬物療法の効果についてはここでは言及しませんが、本来であれば、「なぜそのような症状になってしまったのか」「原因を取り除くには、どのようなアプローチを選択するべきか」という根源的な対応こそが重要なのです。

自転車のタイヤがパンクしても、空気を入れればとりあえずは使えます。しかしすぐまたペシャンコになってしまう。そのたびに空気を入れるよりも、空気が漏れる場所を特定して修理するべきでしょう。「元を絶たなきゃダメ」なのです。しかし現実を見ると、「こころの病い」で病院に通っても、行きつくところは保険診療5分間の世界です。あとは「お薬を出しておきます」で終わり。複雑な人の心の内奥を探り、「こころの病」に至った原因を突き止めて、その原因を除去したり、できないのであれば対処する方策を立てることが「5分間」でできるでしょうか

こうした医療現場の実情を考えると、治療する上で重要なことは、実は「セルフケア」なのだということが理解できます。セルフケアとは「自分の精神状態を知って、対策を講じる」ことです。セルフケアの対極に「おまかせ医療」があります。これまで日本での医療は専門医におまかせで、「自分の精神状態を自ら把握し、適切な対策を常に考える」という自己健康管理という発想は実質的にありませんでした。思い出してください。私たちは学校などの教育機関で、心身の病気について真正面から取り組む教育は受けてきておりません。「生とは何か」について真摯に話したり、「死とは何か」について高度な教育を受ける機会は与えられてきませんでした。

人は習慣の動物です。当然の帰結として、自分の心に対する自己管理や、「生と死」をテーマとした教育体験がゼロの状態のまま育ち、社会に出てしまう。自分の心身が不調なのに、自ら把握しようとしたり、適切な対応を取ろうというアクションが生まれるはずもなく、結局は専門医に「おまかせ」という状況に至ってしまうのです。