メンタルヘルス対策のポイント


診断は患者の生育歴や地域まで考慮する

少し固い話になりますが、こころの病はこれまで「疾患単位」で扱われてきました。現在でもそれは基本的には変わりません。たとえば、うつ病、統合失調症、不安性障害、パニック障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)、アルコール依存症。「疾患単位」とは、平たく言えば、こうした「病名」です。

現代では、これに「発達障害」や「性格障害」などが加重されてきており、診断や治療が複雑化しています。これらの診断、治療の難しさの背景には、例えば、ある人について、どのような家庭環境や交友関係の下で育ったのかという、環境要因としての個人の生育の歴史が治療にも影響を与えるということがあります。

地域の関係性も強いです。最近、東京のあるエリアで社会福祉施設の建設計画が明らかになったとたん、住民の間から「○○には、そのような施設はふさわしくない」という反対論が出て、「地域エゴだ」とか「社会福祉への理解不足」といった批判が出ました。同様なことは心の病の治療についてもいえます。地域の人々の偏見や無理解が原因で、本人にとっても地域にとっても国にとっても必要なはずの治療施設や更生施設の建設反対運動が起きる。こうした現象は前述した地域だけの話ではありません。社会資源としての治療環境を受け入れることは当然だという状態には残念ながらなっていないのが現状です。こうした地域的、物理的事情も、こころを病む人々の治療に影響を与えています。広い視野で物ごとを見定めることが大切なのです。