メンタルヘルス対策のポイント


人が最終的によりどころにする場所とは

この「個人の章」で最後にお伝えしたいことは、「依存」です。依存するということは、我々のこころの実態を示しています。具体的に挙げれば「助け合いと甘え」です。人は、何にも依存せずに生きていくことはできないのです。人が依存する対象、よりどころとする存在。その一つは家族・配偶者です。この繋がり以上の密接な情緒的、存在的な繋がりはないでしょう。だからこそ、彼らとの関係の不調は、ほぼ絶対的な影響を人生に与えてしまいます。

最も大切な家族・配偶者。その上に成り立つ地域や社会、国、世界。そこで必須になるのはコミュニティです。近年、信じられないような災害が続発しています。そんな中で、行政が盛んに喧伝し始めているのが「自助・共助・公助」の「三助」です。災害時に、自分自身の命は自分で守るというのが「自助」。町内会や学校区レベルの、いわゆる顔が見える地域コミュニティで力を合わせるのが「共助」。国や自治体などの公的機関が災害に関する大きな問題を解決するのが「公助」とされています。これは江戸時代に出羽国米沢藩(現在の山形県や秋田県付近)の藩主・上杉鷹山が唱えた「三助の実践」が原型といわれています。あえてコミュニティという言葉を広めなくてはいけない理由は、日本の風土にあります。長く封建制が続いた日本では上下関係にとらわれやすく、真の意味で「協力=共力」することが苦手です。私たち日本人は、孤立することを嫌う一方で、その対極にある「お互いを尊重する」という意味での人権意識が薄いようです。この結果「真のコミュニティ」を形成しにくいのです。

そういう日本人的メンタリティはありますが、看過していては事態が悪化する一方です。家庭においては「話せる家族環境」を作り上げていくために、家族全員の協力が必要です。企業や団体においては、「腹蔵なく意見が言える風通しの良い社風」を作るために、そこで働く一人ひとりが、いかにしてコミュニティ能力を身につけていくか。企業がどのようなロードマップで人材のコミュニティ能力を形成していく企業戦略を練るか。それがこれからの「心の健康」をキープした従業員による企業の進化、そうした企業や団体を包み込んだ「心の健康を維持する社会」形成につながるポイントです。