メンタルヘルス対策のポイント


承認欲求を無理やり抑え込んだ先には…

「自分を受け入れ、認めてほしい」という「承認欲求」について、心の健康を守るという観点から少し掘り下げましょう。「弱い自分を守り、傷つきたくないので正当化する」という、傷つくことからの「防衛」は個人最大の行動要因です。「承認欲求」が満たされれば、生きがい、喜び、自己満足、自己肯定感が生まれます。しかし、他人はさまざまな異なる感情や価値観を持っているので、自分の「承認欲求」は簡単には満たされませんし、認められずに「傷つく」ことも多いのです。人が「建て前」と「本音」を分けてしまうのも、「へたに自己の承認欲求を前面に出すと、周囲から批判されてしまうかも知れない」と構えてしまい、自分の本当の気持ちを抑え込んで、「欲求を否認する」ことを選択することで、自分が傷つかないようにしているのかもしれません。

春秋時代の中国の思想家・哲学者である孔子は、「論語・子路」で「子曰く、君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」と言っています。その心は、「君子は誰とでも調和するものだが、道理や信念を忘れてまで人に合わせるようなことは決してしない。そういう人物たれ」ということです。これを企業内という環境に置き換えると「優れたビジネスマンは、多くの意見をしっかり聞くものだが、企業理念やコンプライアンスに反してまで上司の言うことに唯々諾々と従ってはいけない。優秀なビジネスマンほど自分の意見ははっきりと言うべきである。つまらない人材ほど、従順に同調しているように見えても、心から信奉しているわけではないのだ」ということになるでしょう。

現実には、もし孔子の言葉をそのまま会社で実行すれば、上司ににらまれ、同僚からは協調性のない奴だと思われかねません。そこに自己規制が働きます。意思に反してそういう行動を重ねるとストレスが生まれます。「おかしいよな」「ありえないよな」「長時間働かないといけないなんて、辛いけど、いやな顔はできないものなあ」と疑問や不満を増幅させ、我慢しながら働き続けて、どういう結果が出るでしょうか。