メンタルヘルス対策のポイント


内的な自分と外的な自分 承認欲求を理解する

「個人」は単純ではありません。自分自身を振り返ってみましょう。そこには、「内的」な自分と、「外的」な自分が存在しているはずです。「本音と建て前」という諺がありますが、「内的自分」と「外的自分」は分けて考えることができます。

別の考え方をしてみましょう。「個人」を「単独のもの」として考えるのはとても困難ですし、あまり実際的でもありません。むしろ「個人」は「他者」(社会や集団)との関係においてとらえるのが分かりやすいと思われます。言い換えれば、「個人」と「環境」との関係性です。「精神的な不調」が生じている場合、「個人」と「環境」との間に不適応な状態が生じていると考えると分かりやすいと思います。不適応な状態が生じると、本人にとってよくない状態、すなわちストレスが発生します。

一流レストランでのディナー。誰もが憧れる海外の高級リゾート。話題のソフトクリーム。高級外車。SNSの発達で際立っているのがこうした写真をネットに公開するトレンドです。自分がいかに幸せな状況にあるかを不特定多数の人に知らせたいために、話題の店に何時間も並び、次の客が待っているのに延々と豪華なご馳走の写真を撮影し、インターネット上にあげる。たくさんの「おいしそう」「羨ましいな」といったコメントを欲しがる。反応がないと、さらに次のターゲットを探す。こうした傾向に「社会的に何の意味があるのか」「時間とエネルギーの無駄遣い」「もっと有意義なことにネットを使え」と眉をひそめる知識人も多いようですが、これも人間の心理的行動原理です。

「誰かに、すごいと思ってほしい」「うらやましいと思われる自分でいたい」という感情を抱くのは普通のことで、誰かを傷つけたり反社会的な内容でない限り、それほど非難されるべきものではありません。誰かに認めてほしいという願望を心理学では「承認欲求」といいます。承認欲求は悪いことばかりではありません。「いずれは、皆に一目置かれる一流の大工になる」とか「この世に、誰もが感動するような絵を描いて才能を認められたい」といった感情的発露は、辛くても努力しようとするモチベーションを生みます。むろん、欲求が強すぎると歯止めが利かなくなり、犯罪に手を染めてしまうことすらありえます。

承認欲求にも「内的自分」のものと、「外的自分」のものがあります。「今の自分の存在というものは、自分が理想としている自己像と重なっているか」とか「本当に今の自分に心から納得しているか」という意識が「内的自分」の承認欲求であり、自己承認です。「人から認められたい」「自分はこんなに才能があるんだよ」「自分はこんなに幸せなんだよ」といった欲求が「外的自分」の承認欲求であり、他者承認です。